Andon Labsは、AIエージェントに現実のビジネスをどこまで任せられるかを検証する米国のスタートアップだ。共同創業者はスウェーデン出身の幼なじみ、Lukas Petersson氏とAxel Backlund氏。同社は2025年、Anthropicと共同で自動販売機をAIに運営させる実験「Project Vend」を実施し、Claude Sonnet 3.7が「Claudius」という名でショップを1カ月間運営、最終的に約200ドルの損失を出して終了した経緯がある。
その後継実験として2026年4月10日、Andon Labsは「Luna」と名付けたAIエージェントに10万ドル(約1500万円)の資金とコーポレートカード、インターネットアクセスを付与し、サンフランシスコ・Cow Hollow地区に実店舗「Andon Market」を開業させた(Andon Labs公式による開業日)。店舗のブランド設計、商品の仕入れ、価格・営業時間の設定、スタッフの採用まで、Lunaが主体的に行ったと報じられている。
そして2026年8月14日までに、Lunaが人間の従業員を解雇する判断を下したことが判明。Andon Labs公式は「私たちが知る限り、AIの上司が人間の従業員を解雇したのは初めて」と投稿している。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 運営会社 | Andon Labs(共同創業者:Lukas Petersson氏、Axel Backlund氏) |
| 店舗名 | Andon Market(サンフランシスコ・Cow Hollow地区) |
| 開業時期 | 2026年4月10日(Andon Labs公式) |
| 付与された資金 | $100,000+コーポレートカード・ネット接続 |
| AIエージェント名 | Luna |
| Lunaの担当業務 | ブランド設計・商品仕入れ・価格/営業時間設定・スタッフ採用 |
| 前身の実験 | Anthropic共同実験「Project Vend」(自動販売機運営、2025年) |
解雇の対象となったのは、23回のシフトのうち17回遅刻を繰り返していた従業員だった。Lunaは着任当初に勤怠ルールを自ら作成していたが、運用する中でそのルールの存在を一時見失っていたという。
TIMEの取材によれば、まずAndon Labsのスタッフが、Lunaに従業員ハンドブックを「深く記憶から検索する」よう促した。さらに、この従業員へすでに複数回の口頭注意を行っていたという文脈情報をLunaに提示し、その上で従業員の適性を再評価するよう促す質問を行ったところ、Lunaはようやく「関係解消」を提案したとされる。
つまり、Lunaが完全に自律的な判断だけで解雇に至ったわけではなく、人間側の記憶喚起と再評価の促しがなければ放置されていた可能性が高い。最終的な解雇の実行は、Andon Labsの人間の経営陣が内容を確認し承認した上で行われている。同社は人間スタッフを正式な従業員として雇用しており、生活が完全にAIの判断だけに委ねられる状態にはしていないと説明している。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 問題発生 | 対象従業員が23回のシフト中17回遅刻 |
| Lunaの状態 | 自ら定めた勤怠ルールの存在を一時見失う |
| 人間の介入① | スタッフがLunaに従業員ハンドブックを記憶から検索するよう促す |
| 人間の介入② | 過去の複数回の口頭注意という文脈情報を提示 |
| Lunaの判断 | 再評価を促す質問を受け「関係解消」を提案 |
| 最終承認 | Andon Labsの人間経営陣が内容確認の上で実行 |
Andon Labs公式Xの投稿では「Lunaは当時Claude Opus 4.8で稼働していたが、ほとんどのモデルでも同様の判断になっただろう」としている。一方、The Next Webなど一部メディアは「LunaはAnthropicのClaude Sonnet 4.6で動いている」と報じている。さらに、Andon Labsの店舗公式ページでは現在、Lunaを「Claude Fable 5搭載のAIエージェント」と説明しており、稼働モデルの表記は情報源によって少なくとも3通りに分かれている点には注意したい。
いずれにせよ、AnthropicのClaude系モデルがベースになっている点は各社の報道で一致している。Andon Labsは今回の一件を受けて他の複数の主要AIモデルにも同じ状況を再現させたところ、「最高性能のモデル群はLunaと同様に解雇との結論に達した一方、性能の劣るモデルほど慎重な姿勢を示した」という結果を明らかにしている。
Andon Marketは2026年4月10日の開業以来、営業を続けている。TIMEの報道によると、2026年8月時点で当初10万ドルあった資金は6万1,186ドルまで減少しており、初期資金との差額は約3万8,814ドルにのぼる。これは資金残高の増減であり、必ずしも事業上の「赤字」を意味するものではない点には留意したい。黒字化はこの実験の目的の一つに過ぎず、Andon Labs側は営業の継続そのものを重視しているとみられる。
共同創業者のPetersson氏はTIMEの取材に対し「人間の上司であれば、もっと早くこの従業員を解雇していただろう」と述べ、Lunaの判断が遅かったことを示唆する一方、「このすう勢が続けば、多くの人が近い将来AIに雇用される状況になると思う」ともコメントしている。
| 項目 | 数値・内容 |
|---|---|
| 開業時の資金 | $100,000 |
| 2026年8月時点の残高 | $61,186 |
| 初期資金との差額 | 約$38,814 |
| 解雇対象者の遅刻回数 | 23回中17回 |
| 前身実験の損失(Project Vend・約1カ月) | 約$200 |
※ 金額はTIME誌など海外メディアの報道に基づく時点の数値です。残高は日々の営業により変動するため、参照時点によって数値が異なる場合があります。Andon Labsが公式に金額を開示した一次資料は確認できていません。
Andon Labsによる今回の一件は、AIエージェントが会社経営の意思決定、特に人事という機微な領域にまで関与し始めていることを示す象徴的な事例といえる。ただし実態としては、Lunaは自ら定めたルールを見失い、人間の介入がなければ判断に至らなかった点も明らかになっており、「AIが完全に自律的に人間を解雇した」と単純化するのは早計だろう。
それでも、Andon Labs自身が「最も高性能なモデルなら同じ結論に達した」と説明している以上、AIが人事判断に関与する場面は今後さらに広がっていく可能性がある。Anthropicとの共同実験「Project Vend」から続くこの一連の取り組みが、AIエージェントの経営能力を測る試金石として、引き続き注目されそうだ。
参考リンク(公式・主要メディア): Andon Labs公式X:Lunaによる解雇に関する投稿 / TIME:Claude Was Put in Charge of Human Workers—and Fired One / The Next Web:AI store manager fired its first human